何年かたちました。「いしのうえ」は、十三年目になっていました。
ある夜、ライブのあとの楽屋で、時計は午前一時を回っていました。六人は横一列に座っていました。膝の上に笠を置き、一人一台ずつ、自分のスマホを持っていました。六人目の膝には、手ぬぐいがたたんでありました。
六人が見ていたのは、竜宮城でいちばん人気の配信者の配信でした。同時に見ている人は、八万人を超えていました。
六人は、それぞれ自分のアカウントから、一人ずつ投げ銭を送りました。アイコンは、笠をかぶった自分の似顔絵です。六つ目だけは、手ぬぐいをかぶっていました。額は、どれも少しだけでした。九年目の雪の夜に、六人が受け取っていたのと、同じくらいの額でした。
楽屋の入口で、マネージャーが言いました。
「経費で落ちますよ」
六人目は、画面から目を離さずに答えました。
「投げ銭は、
少しでいいんです」
コメント欄には、「ただいま」が下から上へ流れていました。その中に一つ、「ただいま、でいいんでしょうか」という書き込みがありました。配信者は、それにも「おかえりなさい」と言いました。
それから二年たった、十五年目の秋のことです。
プロデューサーは、ファンのために、公式グッズの笠を作ることにしました。ところが、どこの会社に頼んでも、最初の笠と同じものはできませんでした。形は似ていても、かぶると重たかったり、風で浮いたりしました。事務所の会議室には、試作の笠が十七個並びました。

最初の笠の内側には、竹の骨の付け根に、小さな焼き印が押してありました。笠の絵の焼き印です。六人は、ずっと前から気づいていました。けれども、字の無い印だったので、どこの工房のものか、誰にも読めませんでした。
楽屋の棚には、六人目の古い手ぬぐいが、たたんで重ねてありました。毎年一本ずつ増えて、かぶっている一本と合わせると、六本になっていました。
プロデューサーと六人目は、最初の笠を一つ持って、笠の職人を訪ねて回ることにしました。ライブのない日を選んで、一軒ずつ回りました。
一軒目は、海沿いの町の工房でした。
「この印、読めますか」
「笠の絵ですね」
二軒目は、川沿いの町の工房でした。
「この印、読めますか」
「笠の絵ですね」
三軒目の職人は、印を長いあいだ眺めてから、首をかしげました。
「この印、読めますか」
「良い笠ですね」
四軒目の職人は、自分の工房の焼き印を見せてくれました。それも、笠の絵でした。
五軒目の工房の焼き印も、笠の絵でした。山の木々が色づいて、それから葉を落としました。六人目は、職人を訪ねるたびに、笠の内側を見せました。
六軒目は、峠を越えた先の、古い工房でした。
「この印、読めますか」
年寄りの職人は、笠を両手で受け取ると、内側を見て、それから笠を裏返し、編み目を指でなぞりました。

「これは、山すその……」
職人は、山すその村の名前を言いました。そこに、笠を編む工房が一軒だけあるのだそうです。
「この編み方をするのは、もう、あそこだけです」
帰りの車の中で、六人目は、最初の箱のことを思い出していました。宛名の字はていねいで、少し右に傾いていました。差出人の欄に、住所はありませんでした。笠の絵が一つ、描いてあるだけでした。
「名乗りたくない方なんですね」
「そのようですね」
「では、ファンのみなさんには言わないでおきましょう」
「お礼は、どうしますか」
六人目は、少し考えました。
「年の瀬に送っていただいたものですから、年の瀬にお返しに行きましょう」
その日のうちに、六人目はほかの五人にだけ、そのことを伝えました。五人とも、黙ってうなずきました。
その夜、六人目はスマホを開いて、配信のコメント欄を上から下まで眺めました。笠のアイコンが、何万も並んでいました。




